“自由でいたい人”を好きになった日
「紹介したい人がいるんだけど」
そんなメッセージが届いたのは、Wワークに追われていた頃でした。
昼間は正社員で働き、夜は週4でコンビニのバイト。
土日は娘の部活の送り迎えや家事に追われて、
唯一、自分の時間が持てるのは…平日のたった一日だけ。
前の恋愛が突然終わって、
自信なんて、どこかへ消えてしまった。
「もう恋愛なんていいや」
そんなふうに、心を閉じかけていた頃。
日に日に痩せていく私を見かねた友達が、
「会うだけでも…」と、声をかけてくれた。
最初は迷ったけれど、
「会うだけなら」と、「うん」と答えた。
そして不思議なほどスムーズに、
会う日も、あれよあれよと決まっていきました。
友人を交えた食事の席に現れたのは、
よく喋って、よく笑う人。
自分のやらかし話を面白く話してくれて、
なんだか笑いっぱなしの時間でした。
あんなに笑ったの、いつぶりだっただろう。
帰り道、友人のナイスな計らいで
彼の車で送ってもらうことに。
そして、連絡先を交換。
そこから、LINEのやり取りが始まりました。
数日後。彼から、突然のメッセージ。
「もう、会えないかもしれない」
えっ……何これ。
私、振られた?
頭の中は「!?」と「…」でぐるぐる。
あんなに楽しかったのに、私何かした?
と撃沈していたら――
「で、次いつ会える?」
ええええーー!?(笑)
実は、「大っ嫌いな歯医者に行く」っていうだけの話だったらしくて。
勝手に落ち込んだ私の数時間を返して〜!と思いつつ、
なんだかホッとしていた私もいました。
彼との時間は、私にとってちょっとした”ご褒美”でした。
肉体労働の仕事でくたくたな彼に、アロマトリートメントをすると、
「身体が軽い」
「足裏の痛さが、なんかクセになる」なんて言って、笑ってくれる。
最初は半信半疑だった彼も、
眠りの質が良くなったり、風邪を引かなくなったり――
少しずつ、身体の変化を感じてくれているようでした。
それでも別々の家に帰る時間はやってきて、
気持ちよさそうに眠る彼を起こして、私は自分の家へと帰る。
「朝まで一緒にいられたらいいのに」
「結婚したら…一緒にいられるのに」
そんな思いが、見えたり、見えなかったり
でも、それ以上に私の心を引っ張っていたのは、“娘のこと”。
娘は私と実家で暮らしていました。
彼の家には、ご両親と息子さんが一緒に暮らしていて――
その中に、私達が入るということは、
娘にとっては窮屈になるんじゃないか。
気を遣わないで生きてきた空間から、
気を張る場所に変わってしまうかもしれない。
私はずっと「娘を守る」ことを優先してきた。
それは、ひとり親になったあの時から、心に決めていたこと。
小さな娘を、何があっても守りたかった。
あの頃の混乱から、娘だけは絶対に守らなきゃって、ずっと思っていた。
あの子の自由や安心を、今さら壊すわけにはいかない――
そんな気持ちが、心の底にありました。
言えなかった不安や迷い。
泣き言みたいなことをこぼして
それを、ちゃんと聞いて
「そうだよね」ってうなずいて受け止めてくれたこと。
その時間が、思っていた以上に
私の心をふっと軽くしてくれていました。
そんな私にも、迷いや不安があったように――
彼にもまた、ひとりで抱えていた想いがあったようです。
後から聞いた話ですが、
彼は当時、人間関係にすっかり疲れていて、
「他人と長く一緒にいるのがしんどい」と思っていたそうです。
人を信じることに、少し臆病になっていた彼。
でも、そんな彼が――
「一日一緒にいても、なんか大丈夫だった」
そう言ってくれたとき、心の奥がじんわりと温かくなりました。
それでも、彼の口から「結婚」という言葉が出ることはなくて。
“自由でいたい人”と、
“守るものがある私”との関係は、静かに、でも着実に、育っていきました。
…そう。
5年という時間をかけて。
娘のこと、彼のこと、そして――
自分自身のこと。
娘を守らなきゃ、って
ずっと、気を張って生きてきました。
でも、ふとした瞬間に
私も、誰かに守られたかったのかもしれないなって。
泣き言をこぼしてもいい。
甘えても、頼ってもいい。
そんなふうに思える人に出会えたことが、
どれだけ大きなことだったか、今ならわかります。
「娘に負担をかけたくない」
「でも、あなたのそばにいたい」
その間で揺れていた気持ちは、やがて胸の奥で膨らんでいきました。
彼は、ずっとこのままでいいと思っているのかな?
ずっとこの「恋人」のままで、先に進むことはないのかな――。
ふとした瞬間に、そんな不安が胸をよぎる。
どうしようもなく、ざわざわと心が波立って。
でも、それを言葉にしてしまえば
この穏やかな関係に、波風を立ててしまいそうで。
怖くて、黙って飲み込んでいた想い。
けれど、それでもやっぱり――
「ずっと一緒にいたい」という気持ちは、消えることがありませんでした。
静かに動き出した、私の小さな決断――
さて、それはどんなものだったと思いますか?
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